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【欧州移民新世紀(1)はじめに】新ヨーロッパの明暗 EU拡大と移民政策

3カ月後に欧州連合(EU)拡大を控え、出稼ぎ労働者・移民をめぐるさまざまな問題が顕在化している欧州移民最新事情の報告シリーズ、第一弾
Yukari Saito
Fonte: NikkanBerita 日刊ベリタ - 02 febbraio 2004


 世界がもし100人の村だったら、そのうち3人は母国を離れて暮らす「外国人」。そしてその3人のうち1人がヨーロッパ大陸に住む。

 今年の1月15日、欧州議会(フランス・ストラスブール)は、欧州連合(EU)加盟国内に合法的に居住する非EU国籍の移民に対して市町村選挙および欧州議会選挙の選挙権を与える決議を賛成多数で可決した。加盟国間の国境を取りき、制度を共有、ものとヒトの移動を自由にすることで新しい社会空間を作り上げつつあるEU―。そこに定住するEU以外の国籍者の政治参加が部分的にせよ実現すれば、地球上の広大な地域において個人が「国民」よりも「市民」として位置づけられること意味する画期的な出来事になるだろう。

 欧州議会(フランス・ストラスブール)は15日、欧州連合(EU)加盟国内に合法的に居住する非EU国籍の移民に対し、市町村選挙および欧州議会選挙の選挙権を与える決議を賛成多数で可決した。得票数は、賛成255、反対192、棄権20だった。この決議で、欧州連合は、EU内に合法的に居住する外国人に対し経済、社会、政治(市議会および欧州議会の選挙権を含む)の権利と義務を認める立場を明示したことになる。EU国籍の外国人については、すでに1993年に発効したマーストリヒト条約により地方選挙、欧州議会選挙とも参政権が認められているが、今回の決議で、すでに一部の国や地方自治体に広がりつつある非EU国籍の定住者への参政権拡大の動きに一層拍車がかかることになるだろう。

 欧州連合は1950年代からいくつかの共同体設立とその統合を繰り返しながら、加盟国を当初の6カ国(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ)から現在の15カ国に増やしてきた。今年5月1日にはさらに、チェコ、エストニア、キプロス、ラトヴィア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロヴェニア、スロヴァキアの10カ国が加わり、東に向けて一挙に拡大する。

 加盟国間の国境を取りき、制度を共有、ものとヒトの移動を自由にすることで新しい社会空間を作り上げつつあるEU?。そこに定住するEU以外の国籍者の政治参加が部分的にせよ実現すれば、地球上の広大な地域において個人が「国民」よりも「市民」として位置づけられること意味する画期的な出来事になる。

 とはいえ、この朗報とは矛盾するが、EU諸国在住の非EU圏国籍者の多くにとって、最近のヨーロッパは住みにくい場所になりつつある。移民増大にともなう受け入れ側社会の反動のせいでもあるが、EU国籍者が加盟国間を自由に移動できるようになったのに比べ、日本人を含む非EU国籍者の自由度は年々、縮小する傾向を見せている。

 以前は同じ「外国人」だった私たちの権利や待遇に、EU国籍をもつか持たないかで、決定的な差異が生じるようになってきた。さらに、テロや犯罪防止、財政難や不景気などを理由に自由や権利を制限しとうとする際、あるいは社会問題の責任回避に濡れ衣を着せる相手が必要な場合、「外国人」ならぬ「外EU人」は、他の加盟国から文句を言われる危険なしに犠牲にできる手ごろな存在になってしまった。

 この変化は、旅行者の立場でも多少は感じ取れるかもしれない。EU加盟国に到着したとき、非EUパスポート保持者用の入国審査窓口に並ばせられ、担当職員の不信感に満ちた何となく見下すような態度に接したり、同じ列に並ぶほかの旅行者が不当な差別扱いを受けるのを目にした経験をもつ日本人旅行者も少なくないのではないだろうか。

 非EU国籍の移民ならではのうんざりする手続きや不愉快な個人的体験を思い出し、EU加盟国全体で何が起きているのか興味をそそられる人もいるだろう。外国人問題を扱う地元マスメディアの客観性に疑問を感じたり、個人的な体験をどこまで一般化して論じられるかと考えることもあるだろう。実際、一口にEU加盟国といっても移民、難民、外国人の待遇は国によって様々だ。

 イギリス、フランスのように移民受け入れの長い歴史を持つ国もあれば、イタリアやギリシャ、スペインのように最近までは移民を送り出すほうだった国もある。総人口の9%近い700万人以上の移民を抱えるドイツと総人口比2%に満たないフィンランドの差は大きいはずだ。難民受け入れ制度や帰化、重国籍の許容度、参政権などについても、事情は国ごとに異なっている。

 この企画では、加盟国増大と定住外国人への参政権導入など新たな展開を前にしたEU加盟国から、「外国人」世界の実態を順次リポートしていく。(齋藤ゆかり)


▽ 世界がもし100人の村だったら?

 世界がもし100人の村だったら、そのうち3人は母国を離れて暮らす「外国人」──。

 2002年発表の国連の最新統計によると、世界中で生まれた国とは違う国で生活している人は、2000年に1億7500万人(世界総人口の35人に1人、南米の大国ブラジルの全人口に相当)を超えた。過去35年間に倍増したこの数は、今世紀の前半は増え続け、中国、メキシコ、インド、フィリピンをはじめとする発展途上国から米国、ドイツ、カナダ、イギリスなどの先進工業国への人口の大移動が予想されるという。

 もっとも、国連の統計値には非合法な滞在者は含まれておらず、将来の展望には紛争や気候変動による旱魃などにより追いつめられ移住する大規模な難民流出は勘定されていない。

 しかし、受け入れ国で社会問題として取り上げられ、世論や移民政策に直接関わってくるのは、まさにこの種の移住であることが多い。

 国連の統計では、2000年の世界の難民総数は1588万人余り。うち84・8%がアジア・アフリカの発展途上国に滞在する。EUなど先進国でしばしば受け入れが議論される難民問題も、実際にはその負担のほとんどを貧しい近隣諸国に負わせているのが現状だ。

 コフィ・アナン国連事務総長は、昨年12月18日の「国際移住者デー」に寄せたメッセージで、移民を送り出す国、通過国、受け入れ国それぞれにとって大きな影響を及ぼす移住現象を上手に管理していくことが21世紀の世界にとって重要な課題になると述べた。このメッセージには今日の移民の実態が端的に描かれている。

 「多くの人々は移住を余儀なくされ、危険に満ちた旅を経験したあげく、新しい母国で苦難に直面している。悪辣な人身売買人、密航手配者、雇用主による搾取や虐待を受けやすい人々も依然として多い。さらに、近年では、移民は一部の社会で非難の的となったり、国内の治安を理由に権利を否定されたりもしている。しかし、このような多くの障害にもかかわらず、移住者の大半は受入国の社会に大きく貢献すると同時に、送金によって出身国の経済も支えている」

 移住現象を上手に管理していくための原則として、アナン事務総長は、「移住者自身の立場を忘れないように」と釘をさしつつ、移住者に対する世論の理解向上と国家間の協力強化の必要を強調する。

 「正規・非正規あるいは合法・非合法を問わず、移住労働者とその家族の人権尊重を確保するために、さらなる取り組みが必要だ」と訴え、各国に対し、1990年12月18日に採択され、昨年7月にようやく発効した「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約(通称:移住労働者権利条約)」を批准するよう呼びかけている。

 一方、事務総長がメッセージを寄せたのと同じ日、ローマ法王ヨハネス・パウロ2世は、移住する権利を認めながらも、自分の国で平和裏に暮らすことができるような「移住しない権利」を主張した。

 ローマ法王は「戦争や暴力、テロリズムや圧政、差別と不正など、今日の深刻な問題が、しばしば最も貧しい地域を襲い、多くの人々を不本意な移住へと追いやっている」と指摘し、次のように訴えている。

 「平和の強い願望、つまりその欠如こそが移民・難民を生み出す以上、地域および国家の賢明な行政とより公正な通商、連帯に基づく国際協力を通じて、どの国も自国民に表現と移動の自由を保証し、食料、健康、仕事、住居、教育を確保できる状態に置かれなければいけない」

 さらに、移民が異文化間の交流と理解に重要な役割を果たし、世界の和解と平和に大きく貢献できることも強調した。


▽ 「みんなの家ヨーロッパ」?

 2000年に1億7519万人を数えた世界の移住者人口のうち、その3分の1がヨーロッパ大陸に住んでいる。100人の村の住人に置き換えれば、1人が「在欧移民」ということになる。

 国連の統計では、5829万人にのぼる「在欧移民」の半分が、ロシアを含む東欧および中欧に、残り半分の2712万人がEU、249万人がその他の西欧諸国にそれぞれ居住する。

 一方、出生国ではなく国籍をもとにした別の統計によると、2000年末にEU加盟国圏に合法的に居住する外国人(居住国の国籍をもたぬ者)は2000万人足らずで、EU総人口比で5・2%。この数は、外国人その多くが定住しないこと、毎年約50万人が居住国の国籍を取得することなどが理由となって、過去5年間、ほぼ横ばいという。

 このほか国際移住機構(IOM)の推定によれば、毎年最低12万人、最高50万人ほどがEU圏に不法入国していると見られている。

 日本と同じように少子化と高齢化が進むEU社会において、人口のバランスを維持しているのはいまや移民だ。イタリアなど一部の国では、すでに移民労働者なしには経済や社会生活が成り立たなくなりつつある。この傾向は今後も強まると予想されている。

 にもかかわらず、近年のEU諸国の移民政策は、入国・移住許可・難民受け入れを制限し、国境管理を強化する方向に向かっている。しかし、紛争、異常気象、経済不均衡など移住を促す根本的な原因解決は放置されたままであるため、合法的入国・滞在への道を閉ざされた移住・亡命希望者を生命の危険や搾取にさらす結果になっている。

 それは、「正規・非正規あるいは合法・非合法を問わず」移住者の人権尊重を最優先する国連事務総長やローマ法王の立場とはかなりかけ離れたものだ。

 現に、アナン事務総長が批准を呼びかけた「移住労働者権利条約」の批准国リスト(2003年12月現在24カ国)の中に、EU加盟国は一つも見当たらない。欧州で唯一の署名国が、人権問題を理由にEU加盟の道を閉ざされているトルコという事実は、皮肉に聞こえるとと同時にEUの抱える深刻な矛盾を物語っている。


【資料】決議文抜粋
European Parliament resolution on the Communication from the Commission on immigration, integrationand employment (COM(2003) 336 - 2003/2147(INI))
(European Parliament Texts Adopted by Parliament Provisional Edition : 15/01/2004 Immigration,integration and employment) の選挙権に関する条項33.EU内に合法的に滞在する第三国籍者が地方選挙および欧州選挙における投票権を含む政治的、社会的、経済的な権利と義務を認められた地位を享受できるようになる、市民としてのシチズンシップの概念が伝達の中に含まれていることを歓迎するが、これは単なる法的なイニシアチブの実施よりも重要な意味を持つことを強調する。市民としてのシチズンシップは、共同体に属しその一員となるという意味で重要なのだ。
 特に条約13条に定められた原則に基づき、市民権獲得に要する資格に差別がないよう加盟諸国に確認することを委員会に促す。


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