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組み換え作物は「植民地主義の産物」  スローフード提唱者カルロ・ペトリーニ氏   「人種差別」とインドのヴァンダナ・シヴァ氏

Yukari Saito
Fonte: NikkanBerita - 24 luglio 2003

 

No OGM

  イタリアで、遺伝子組み換え種の是非をめぐる議論が、にわかに熱を帯びている。安価で、天災や害虫に強く農家を助け、世界の飢えを解消するというのは本当なのか。伝統種との共存は?7月15、16日両日、ピサで食糧と平和をテーマに国際会合「新しいグローバル・ヴィジョン」が開かれ、世界的に知られるスローフードの創始者カルロ・ペトリーニ氏やインドの科学者ヴァンダナ・シヴァ氏が参加した。ペトリーニ氏の話からは、日本にも広がりつつあるスローフード運動が、じつは消費者個人の健康と美食の探求よりもはるかに奥の深い、世界と共同社会のありかたを見つめた文化思想、政治運動であることなどが伝わってきた。(フィレンツェ=齋藤ゆかり)

 7月15、16日両日、ピサのサン・ロッソーレ自然公園で食糧と平和をテーマに開かれたトスカーナ州主催の国際ミーティング《新しいグローバル・ヴィジョン》でも、遺伝子組み換え種の問題が大きく取り上げられた。

 この国際ミーティングは、2001年夏、ジェノヴァ・サミットを控え国内で急速に広がりつつあった反グローバル化市民運動に地方行政との対話の場を提供しようと、トスカーナ州のマルティーニ知事の発案でスタート。平和や経済、医療、環境問題などについて、国内外からさまざまな見解をもつ一流の論客を招き、パネルディスカッションと分科会を行なうほか、国際協力や文化事業のプロジェクトを具体化する場を設けるのが目的だ。

 3回目を迎えた今年、最初に取り上げられたテーマは「食糧=地球の富を分かち合う」だった。著名なインドの科学者で市民運動家ヴァンダナ・シヴァ氏やイギリスの環境専門誌《エコロジスト》の創刊者エドワード・ゴールドスミス氏、遺伝子工学の専門家、欧州議会議員らが参加した。講演者のなかには、食文化の保護と普及運動で世界的に知られるスローフードの創始者カルロ・ペトリーニ氏も名を連ね、300人を超える聴衆の喝采を浴びた。

 日本にも広がりつつあるスローフード運動が、じつは消費者個人の健康と美食の探求よりもはるかに奥の深い、世界と共同社会のありかたを見つめた文化思想、政治運動であることが伝わってくるスピーチである。

 以下にペトリーニ氏の講演(要約)とあわせ、ヴァンダナ・シヴァ氏の興味深い論点を紹介する。

「持続可能な環境と何を作り食べるかを自分たちで決める権利」

●スローフード会長 カルロ・ペトリーニ氏 

 持続可能な環境とは、ゼロ成長の社会、農業はその典型である。そのことが忘れられがちなのは、先進国における農業人口が極端に減り続けているためだ。

 世界人口の60%以上はまだ農業に従事しているが、成長に頼る経済はいたるところで農業を疎外、農業社会からの人口流出を引き起こしている。

 だが、持続可能な環境をつくるためには、南の世界の農業を支援すると同時に、北の農業、小さな規模の農村社会を立て直すことが必要だ。

 これは、非現実的なユートピアでもなければ、懐古主義でもない。

 過酷な労働を強いられていた昔の農民とは異なり、今日の農家は食べ物を作るれっきとした市民である。小規模の農村社会の再建とは、伝統を活かし、私たちにとって最も重要なものの生産活動に中心をおいた新しい経済を構築することにほかならない。

 私の知り合いにピエモンテの田舎でレストランを経営する素晴らしいコックがいるのだが、大勢客が入る夜と日曜日になぜ店を閉めたままにするのかと尋ねる人々に、彼女はいつもこう答える。「あたしゃ、霊園一の金持ちになりたいとは思わんよ」。

 現代人は、彼女の爪の垢を煎じて飲むべきだと思う。量産に追われる経済は、いずれ破綻する。

 実際、わたしたちが食べ物に注意を払うようになったのは、味のしないトマトや桃にうんざりし、狂った牛の肉の恐怖を体験したからだ。

 けれども、質の重視は、北の世界の特権に過ぎない。わたしたちはまだ今のところどんな作物をつくるか選択できるけれど、南の世界の農民にその自由はない。

 でも、どんな作物をつくるかは、本来、農民や共同社会が自分たちで決めるべきことではないだろうか。

 この権利の否定は植民地主義にほかならない。

 なぜなら、食べ物ほど国民のアイデンティティを限定するものはないからだ。その影響力は、ことばの力にまさるといってもよい。

 遺伝子組み換え種は、現代の植民地主義の権化である。

 幸い、トスカーナ州では、州政府の配慮、援助もあって伝統的な作物や食品が健在である。

 ところが、遺伝子組み換え種の親玉企業モンサントは、そこにやってきてどんなトマトを植えるべきか、みなさんに教えをたれようというのだ。人を馬鹿にするにもほどがある。

 欧州連合は、遺伝子組み換え商品に明確な表示を義務づけることを決めた。

 そして、それさえあれば、伝統種と遺伝子組み換え種の共存は可能だと思っているらしい。

 けれども、遺伝子組み換え種というはくせもので、カッコウのようにこっそりほかの種の間に侵入し、在来種を滅ぼしてしまうことを忘れないでほしい。

 膨大な土地とそれを隔てる砂漠や渓谷に恵まれたアメリカでこそ、共存は可能かもしれないが、押し合いへし合いの小規模農業でなりたっているイタリアのような国では、机上の空論である。

 私がいくら有機栽培に精を出しても、隣の農家が遺伝子組み換え種を育て始めたら最後、有機栽培畑は駆逐されてしまうのだから。

 2つの種は、力関係がちっとも平等ではないのだ。遺伝子組み換え種を栽培する農家は、自分の行為がほかの農家から選択の余地を奪うこ結果をもたらすのをもっと自覚すべきである。

 遺伝子組み換え種の是非は、世界の農業の未来を左右する問題なのだ。

 各々の共同体が、住民の食の安全を保障するために自ら農業モデルを決定する権利を侵してはならない。

 スローフードは、イタリアの全地方自治体が、遺伝子組み換え種の導入について明確な反対の意思表示をするよう働きかけていく。

「遺伝子組み換え種は、植民地主義と人種差別思想の産物」

Vandana Shiva e Carlo Petrini al Meeting di San Rossore, Pisa

●第三世界の声を代弁するヴァンダナ・シヴァ氏

 最近の生物多様性の思想は、人種差別主義に蝕まれている。黒い穀物より白いほうが好まれ、それで不足するビタミンなどの栄養分は人工的に添加される。

 今、イタリアでは雨が降らず深刻な事態に陥っているが、インドも同様だ。しかも、多国籍企業の農場で9時から5時まで炎天下で働かされ、多くの農民が暑さゆえに死んでいる。自分の畑を耕すインドの農民は、炎天下で働いたりしない。昔から、明け方と夕方に畑仕事をするのが常だったから、こんなことは起きなかった。

 多国籍企業がインドの農民に強いているのは、労働時間だけではない。インド原産の米の特許を取得して彼らが自分たちの食べ物を生産するのを妨害する一方で、先進国の市場向けにパスタ用の小麦粉やワインのブドウといった、土地にあわない作物の栽培を強要し、食糧の自給力と伝統的農業を破壊へと導いている。

 そこに追い討ちをかけるのが、遺伝子組み換え生物である。

 南の世界は、いまや、だれもほしがらない遺伝子組み換え種に市場を見出すためのいい口実にされてしまったようだ。富める北の世界は、途上国の飢えを解消するために遺伝子組み換え種を認めるよう、圧力をかけられているのだから。

 だが、遺伝子組み換え種が飢える者を救うというのは、真っ赤な嘘だ。

 先進国は、インドが米国から救援物資として送られてきた何トンものトウモロコシを拒んだことを知るべきである。遺伝子組み換え種が混入していない保証が得られなかったからだ。インドでは、遺伝子組み換え生物はお断りなのである。

 そもそも遺伝子組み換え種は、成功率も生産性も在来種に比べはるかに低い。遺伝子組み換え種の綿の生産性は、普通の綿の10分の1に過ぎないのだ。

 第三世界の農民から自分たちの共同体のために自分たちで決めた土地にふさわしい作物を栽培する権利を奪うのは、彼らをますます貧困に突き落とし、売春、子どもや臓器の売却へと追いやることになるだという。 

 

(注)

*カルロ・ペトリーニ 

 1949年、ピエモンテ州生まれ。スローフードは、1986年、ローマを象徴する名所の一つ、スペイン広場に開店したマクドナルドへの抗議から生まれた運動。伝統的な食文化の再評価ばかりでなく、ライフスタイルそのものを問い直す。現在、支部は世界45カ国、会員6万5000人。

*ヴァンダナ・シヴァ

 1952年生まれ、インドの科学者、哲学者。科学技術エコロジー研究基金所長。邦訳著書に『ウォーター・ウォーズ―水の私有化、汚染、そして利益をめぐって』(緑風出版、2003年)や『緑の革命とその暴力』(日本経済評論社、1997年) がある。

*トスカーナ州は、2000年、ヨーロッパではじめて遺伝子組み換え種の販売、栽培を全面禁止した。

*欧州議会は、7月初め、遺伝子組み換え生物(GMO)が0.9%以上混入する食品、飼料、種子のすべてにくわしい表示を義務づける決定を下した。この新法導入で消費者の安全は保障されるとの判断に立ち、米国との摩擦の原因であるGMO輸入規制を年内にも解除する動きを見せている。遺伝子組み換え植物の栽培を許可するか否かについては、各国政府に判断を委ねるが、事実上、伝統的な農業との共存を許していく方針。

 一方、イタリアでは、最近、無認可の遺伝子組み換えトウモロコシ栽培が次々に発見されている。北西端にあるピエモンテ州(州都トリノ)がすぐに汚染の恐れがある畑の破壊を命じたかと思えば、となりのロンバルディア州(州都ミラノ)では3月から実態を把握してたのにもかかわらず、黙認していたことが発覚した。汚染は、さらに東に広がっている可能性が高く、遺伝子組み換え種を農家に売りつけた企業、米国大手モンサント、パイオニアなどが、詐欺の疑いで起訴されている。

*欧州の世論調査機関ユーロバロメトロの最近の調査によると、ヨーロッパの消費者の7割は、遺伝子組み換え食品を拒否。たとえより安く脂肪分が低かったとしても買わないという。